⑤ 賃貸経営のランニングコスト削減:一度の手間で「永続的な利益」を生む固定費の見直し術

記事内に広告が含まれています。

「家賃収入を増やすのは難しいが、支出を減らすのは今すぐできる」

多くのオーナー様が空室対策や家賃アップには心血を注ぎますが、毎月通帳から引き落とされる「清掃費」「電気代」「保険料」といった固定費については、管理会社や代理店に任せきりにしているのが実情です。

しかし、賃貸不動産経営管理士の視点で見れば、ここには手付かずの「利益の源泉」が眠っています。ランニングコストの削減は、単なる節約ではありません。浮いたコストはそのまま純利益(NOI)となり、収益還元法で計算される物件の「資産価値」をダイレクトに押し上げる、極めて合理的な投資戦略なのです。

本記事では、入居者の満足度や物件の美観を一切損なうことなく、裏側の無駄だけを徹底的に排除する手法を解説します。清掃の質を高めながらコストを下げる方法、電気代の契約構造を利用した裏技、そして物件のリスクに合わせた保険の最適化。

「なんとなく」払い続けてきた経費にメスを入れ、あなたの物件をより筋肉質な経営体質へと進化させましょう。

賃貸不動産経営管理士として、ランニングコスト削減の第一歩に「清掃」を挙げるのは、これが単なる経費ではなく、物件の「鮮度」を保つための生命線だからです。

しかし、多くのオーナー様が「管理会社が決めた定額」を漫然と払い続けています。第1章では、清掃の「質」を落とさずに「コスト」を最適化する、実務的なアプローチを解説します。

第1章:清掃コストの「見える化」と適正化

「毎月払っている清掃費」に見合った効果が出ているかを検証します。清掃は、やりすぎれば利益を圧迫し、手を抜きすぎれば空室を招く、バランスが重要な項目です。

1-1. 定期清掃の「回数」と「内容」はターゲットに合っているか?

「月4回、定額1万円」といった一律の契約を見直し、物件の個別状況とターゲットの期待値から逆算します。

  • 環境に合わせた「回数の変動」: 例えば、敷地内に大きな広葉樹がある物件なら、落葉時期の11月〜12月は回数を増やし、逆に汚れにくい夏場は回数を減らす。こうした「メリハリ」をつけるだけで、年間トータルのコストを抑えつつ美観を維持できます。
  • ターゲットが求める清潔感: 単身学生向け物件なら「ゴミ置き場が荒れていないこと」が最優先ですが、高所得層向けの分譲貸しマンションなら「エントランスの指紋一つない状態」が求められます。過剰なスペックを削り、ターゲットが「不快に感じない最低ライン+α」を狙うのが経営管理士の視点です。

1-2. シルバー人材センターや地域清掃業者の活用

大手管理会社が手配する清掃は、そこでも中間マージンが発生しています。ここを「地域密着の担い手」に切り替えることで、コストは下がり、質が上がるケースが多々あります。

  • シルバー人材センターの強み: 近隣に住む高齢者の方が担当することが多いため、交通費が不要で、かつ「自分の街の物件」という責任感を持って丁寧に応対してくれる傾向があります。週1回の掃き掃除程度なら、プロの業者に頼む半額近いコストで済むこともあります。
  • 地域清掃業者の「機動力」: 地元の小規模な清掃業者は、大手にはない柔軟な対応が可能です。「カラスにゴミを荒らされたから、今日だけ追加で掃除してほしい」といった緊急の要望にも、距離が近ければ安価に対応してくれる「物件の守り神」になり得ます。

1-3. 賃貸不動産経営管理士が教える「清掃報告書」のチェックポイント

コストを最適化しても、現場が手抜きになっては本末転倒です。業者から届く「報告書」をどうチェックするかが、管理の質を左右します。

  • 「定点写真」の義務付け: 「掃除しました」という文字だけの報告ではなく、ゴミ置き場、エントランスの隅、ポストの上など、汚れが溜まりやすい箇所の「ビフォー・アフター写真」を必須にします。
  • 触感と視点のフィードバック: たまに物件を訪れた際は、「ポストの上の埃」を指でなぞってみてください。 指が白くなれば、それは「掃き掃除」はしていても「拭き掃除」が抜けている証拠です。こうした具体的な指摘を一度行うだけで、業者の緊張感は劇的に高まり、コストに見合った(あるいはそれ以上の)仕事が維持されるようになります。

賃貸不動産経営管理士として、次に取り組むべきは「エネルギーコスト」の最適化です。共用部の電気代は、いわば物件が呼吸をするだけで発生するコスト。ここを絞ることは、建物の心臓部をメンテナンスして燃費を向上させる作業に他なりません。


第2章:共用部電気代を削減する「3つの即効策」

24時間365日止まることのない電気代は、一度の対策で永続的な利益を生み出し続けます。

2-1. 共用灯の「LED化」と「センサー・タイマー設定」の最適化

照明のLED化は今や常識ですが、管理士の視点では「ただ替える」以上の工夫でさらにコストを削ります。

  • LED化の圧倒的ROI: 白熱灯からLEDに替えるだけで消費電力は1/5〜1/8に激減します。交換費用は数ヶ月〜1年程度の電気代削減分で回収できるため、まだ手付かずの箇所があれば最優先で実施すべきです。
  • 「時間」と「動き」を支配する:
    • 明暗センサー・タイマー: 「暗くなったら点灯、深夜2時に半分消灯」といった緻密な制御で、入居者の利便性を損なわずに無駄な点灯時間を削ります。
    • 人感センサー: 常に点灯している必要のない「駐輪場」や「ゴミ置き場」「非常階段」は人感センサーに切り替えます。防犯効果(急に点灯することで不審者が驚く)と節電のダブル効果が期待できます。

2-2. 電動力(動力契約)の基本料金を見直す「電子ブレーカー」の導入

エレベーターや給水ポンプ、立体駐車場がある物件では、通常の電気契約とは別に「低圧電力(動力契約)」を結んでいるはずです。ここには大きな「固定費削減」のチャンスが眠っています。

  • 契約形態の「主開閉器契約」への変更: 従来の契約(負荷設備契約)は、すべての設備の合計出力で基本料金が決まりますが、「電子ブレーカー」を導入して「主開閉器契約」に切り替えると、**「実際に使った最大電流」**に基づいて基本料金を設定できます。
  • 経営的メリット: エレベーターなどは一瞬だけ大きな力を使いますが、平均的な負荷は小さいものです。電子ブレーカーで緻密に制御することで、基本料金を毎月数千円〜1万円以上、年間で10万円単位の固定費削減に成功する事例も珍しくありません。

2-3. 新電力(電力自由化)への切り替えシミュレーション

電力会社を地域の大手(東京電力や関西電力など)から新電力へと切り替えることは、今やリスクのない標準的な手法です。

  • 切り替えの「無風」性: 送電網は既存のものを利用するため、電気が止まりやすくなったり、質が落ちたりすることはありません。事務手続きだけで、共用部全体の電気代を3〜10%程度削減できる可能性があります。
  • シミュレーションの重要性: 「基本料金が安いプラン」や「夜間単価が安いプラン」など、共用灯の点灯時間やエレベーターの使用頻度に合わせて最適な会社を選びます。管理会社に任せきりにせず、一度オーナー自ら検針票を持って相見積もりを取る価値は十分にあります。

第3章:火災保険料を見直す「リスク細分型」の選び方

火災保険は「万が一」への備えですが、多くのオーナー様が内容を精査せず、購入時や更新時の提案をそのまま受け入れています。しかし、近年の保険料値上げが続く中、ここを最適化できるかどうかは長期的なキャッシュフローに直結します。

言われるがままに入り続けている保険は、過剰な補償が含まれている可能性があります。物件の「真のリスク」を見極め、必要な分だけを賢く買うのがプロの経営です。

3-1. 築年数や構造に合わせた「不要な補償」の断捨離

多くのパッケージ型保険には、その物件には起こり得ないリスクへの補償が含まれています。

  • 「水災補償」の要不要: マンションの高層階にある区分所有物件や、ハザードマップ上で浸水リスクが皆無な高台の物件に「水災補償」を付けていませんか?これを外すだけで、保険料は2〜3割ほど安くなるケースがあります。
  • 構造によるリスクの選別: コンクリート造(RC)のマンションなら、隣室からの延焼リスクは木造より低くなります。一方で、給排水管の老朽化による「水濡れ(みずぬれ)損害」への備えは必須になるなど、築年数と構造に合わせた「足し算・引き算」が必要です。

3-2. 免責金額(自己負担額)の設定による保険料の圧縮

「何かあったら全部保険で直したい」という心理が、実は最も保険料を高くしています。

  • 小さな修繕は「自費」と割り切る: 免責金額(自己負担額)を「なし」や「1万円」に設定すると、掛け金は跳ね上がります。これを「5万円」や「10万円」に設定してみてください。
  • 経営的判断: 数万円の小さな修繕は、前章までで解説したコスト削減分やDIYで対応可能です。保険はあくまで「建物の全焼」や「大規模な賠償事故」など、経営が破綻しかねない致命的なリスクをカバーするものと定義し直すことで、固定費を大幅に圧縮できます。

3-3. 複数物件の「一括契約」や「長期契約」による割引の活用

資産規模が大きくなってきたオーナー様こそ、契約の「まとめ方」でスケールメリットを出すべきです。

  • 一括契約(包括契約)の検討: 複数の物件を所有している場合、個別にバラバラの時期に契約するのではなく、一つの契約にまとめる「包括契約」にすることで、事務手数料の削減や大口割引が適用される場合があります。
  • 長期契約によるコスト固定: 近年の異常気象の影響で、火災保険料は年々上昇傾向にあります。現在の最長期間である「5年」で契約を固めてしまうことで、将来の値上げリスクを回避し、単年あたりのコストを最安に抑えるのが鉄則です。

コスト削減の真の目的は、単に手元に現金を残すことではありません。絞り出した利益を「次の一手」へどう繋げ、資産価値を最大化させるか。第4章では、経営者としての「資金循環」の思考法を伝授します。

第4章:削減したコストを「物件力」へ再投資する循環

ただの「ケチ」で終わる大家は、物件を衰退させます。賢い経営者は、削ったコストを「原資」に変え、物件の未来を買います。

4-1. 浮いた月1万円が、物件の「返済比率」と「出口価格」をどう変えるか

「たかが月1万円」と侮ってはいけません。不動産経営において、この小さな積み重ねは「レバレッジ」となって跳ね返ってきます。

  • キャッシュフローの安定: 月1万円(年間12万円)のコストカットは、ローンの月額返済を1万円減らすことと同じ効果があります。これは、空室が発生した際の「耐性」を強め、経営の心理的余裕を生みます。
  • 出口戦略(売却価格)へのインパクト: 収益不動産の価値は「純利益(NOI)÷ 還元利回り」で決まります。
    計算例: 年間12万円の利益増、還元利回り6%の地域の場合
    120,000円(年間の収益増)÷ 0.06(還元利回り6%)= 2,000,000円
    つまり、月1万円のランニングコスト削減は、物件の売却価格を200万円引き上げたことと同義なのです。

4-2. 経費削減のストレスを「入居者の満足度」に転換させないための注意点

コスト削減には「やっていい削減」と「やってはいけない削減」があります。

  • 「裏側」は削り、「表側」は守る: 電気代の基本料金や保険料など、入居者が気づかない「裏側」のコストは徹底的に削るべきです。しかし、清掃回数を極端に減らしたり、共用灯を間引いて暗くしたりといった「表側」の削減は、入居者の不満を買い、退去(=最大の損失)を招きます。
  • 経営者の視点: 「コストを削ってサービスを下げる」のは素人です。「コストを削っても品質を維持する(あるいは向上させる)」のがプロの仕事です。入居者が「この家賃でこの管理の良さは得だ」と感じる状態を維持することが、長期入居への最短ルートです。

4-3. 賃貸不動産経営管理士の結論:コスト削減は「攻めの投資」の原資である

私の結論はシンプルです。コスト削減で浮いた資金は、積極的に「物件力の向上」へ再投資すべきです。

  • 再投資の具体例: * 削減した保険料で、エントランスに「防犯カメラ」を増設する。
    • 浮いた清掃費で、年1回の「高圧洗浄」を実施する。
    • 分離発注で浮いたリフォーム代を、人気の「宅配ボックス」設置費用に充てる。
  • 正の連鎖を生む: 無駄な固定費を削り、その分で設備の付加価値を高めれば、家賃単価の維持や早期客付けが可能になります。この「利益の再配分」こそが、賃貸不動産経営管理士が目指す、盤石な賃貸経営の姿です。

【まとめ】固定費の見直しは、未来の利益を「予約」する作業である

ランニングコストの削減は、単なる「節約」という小さな枠組みには収まりません。それは、物件が持つ潜在的な収益力を解き放ち、オーナーであるあなたの「経営判断」の自由度を高める、極めて創造的なプロセスです。

  • 「裏側」を徹底的に絞る: 電気代の契約構造や保険の特約など、入居者の満足度に影響しない支出を冷徹に見直す。
  • 「質」を伴う効率化: 清掃の回数や方法をターゲットに合わせて最適化し、コストを下げながらも「物件の鮮度」を向上させる。
  • 資産価値へ変換する: 年間数万円の削減を、収益還元法に基づいた「数百万円の資産価値向上」として捉える。
  • 利益を循環させる: 浮いた資金を空室対策や設備投資へ再配分し、物件をより筋肉質な体質へと進化させる。

一度仕組みを作ってしまえば、その効果は物件を手放すその日まで永続的に続きます。 「なんとなく」払い続けてきた1円にこだわり、それを「入居者の笑顔」や「将来の備え」に変えていく。その積み重ねができるオーナーこそが、変化の激しい不動産市場において、揺るぎない富を築いていくのです。