④ 分離発注のすすめ:管理会社を「敵」にせず、修繕コストを30%削減するディレクション術

記事内に広告が含まれています。

「管理会社の見積もりが高いのは、自分たちが儲けるためだ」と、不信感を募らせてはいませんか?

確かに、管理会社を通した見積もりには中間マージンが含まれています。しかし、それを単純に排除しようとするだけでは、管理会社との関係が悪化し、結果として客付けの優先順位を下げられたり、トラブル時のサポートを失ったりという、目に見えない「大きな損失」を招きかねません。

賃貸不動産経営管理士として推奨するのは、管理会社を排除する「中抜き」ではなく、お互いの役割を最適化する「戦略的分離発注」です。

本記事では、工事の三重構造を解き明かし、中間マージンの正体を理解した上で、オーナーが自ら「現場監督」となってコストを30%カットするための具体的な手順を公開します。さらに、浮いたコストを「広告費」へと賢く再投資し、管理会社のモチベーションを上げながら満室へと導く、スマートな利益分配の仕組みを伝授します。

「安くする」だけでなく、「物件に関わる全員が潤う」仕組みを構築すること。これこそが、長期的な成功を収めるオーナーが実践している、最高峰のコスト管理戦略です。

賃貸不動産経営管理士として、分離発注の重要性を説く際、まず最初に明確にすべきは「管理会社が悪徳だから高いわけではない」という事実です。

第1章では、業界の収益構造を冷静に分析し、なぜ30%ものコストカットが可能なのか、そのロジカルな根拠を解説します。


  1. 第1章:なぜ「丸投げ」は高いのか?管理代行の収益構造を知る
    1. 1-1. 管理会社・元請け・下請けの「三重構造」とマージンの正体
    2. 1-2. 「責任代行料」としての30%を自分で引き受ける覚悟
    3. 1-3. 賃貸不動産経営管理士が見る、分離発注が「NOI(営業純利益)」に与える影響
  2. 第2章:分離発注の第一歩。信頼できる「直接業者」の見つけ方
    1. 2-1. 地元の「職人直営店」をポータルサイトやSNSで探す方法
    2. 2-2. 良い業者と悪い業者を見分ける「3つの質問」
    3. 2-3. くらしのマーケットやゼヒトモ等の「マッチングサイト」を賢く使う
  3. 第3章:失敗しないための「ディレクション(指示)」の技術
    1. 3-1. 仕様書(指示書)の作成:言葉のズレが追加費用を招く
    2. 3-2. スケジュール管理の要諦:クリーニングと設備工事の順番を間違えない
    3. 3-3. 現場確認のポイント:プロの職人に「なめられない」チェックリスト
  4. 第4章:管理会社との「役割分担」を再定義する
    1. 4-1. 「全部自分でやる」のではなく、一部を切り出す「部分分離発注」
    2. 4-2. 分離発注した工事でトラブルが起きた際の「自己責任論」を徹底する
    3. 4-3. 浮いたコストを管理会社への「成功報酬」へ回す、スマートな利益分配
    4. 【まとめ】分離発注は、管理会社と「より良い未来」を築くための手段である

第1章:なぜ「丸投げ」は高いのか?管理代行の収益構造を知る

「管理会社の見積もりは、職人の直値より3割高い」と言われますが、これは不当なぼったくりではなく、多層的な流通構造による必然です。

1-1. 管理会社・元請け・下請けの「三重構造」とマージンの正体

賃貸業界の工事は、多くの場合、以下のステップを経てあなたの元へ見積もりが届きます。

  1. 管理会社: 工事の必要性を判断し、業者を手配・監理する(マージン 10〜15%)
  2. 元請け(工務店・リフォーム会社): 資材の手配や工程管理を行う(マージン 10〜15%)
  3. 下請け(職人): 実際に現場で手を動かす

あなたが支払う10万円のうち、実際に現場で使われる労務費や材料費は6〜7万円程度。残りの3〜4万円は、各社の「調整コスト」や「利益」として消えていきます。これが、いわゆる中間マージンの正体です。

1-2. 「責任代行料」としての30%を自分で引き受ける覚悟

管理会社に支払っているマージンには、実は「責任の丸投げ料」という側面があります。

  • 業者の選定と手配: どの職人が腕が良いかを探す手間。
  • 現場の監督: 工事が指示通りに進んでいるか確認する手間。
  • アフターフォロー: 施工不良があった際、職人にやり直しを命じ、入居者に謝罪する手間。

分離発注で30%のコストを削るということは、これらの「手間」と「リスク」をオーナーであるあなた自身が引き受けるということを意味します。この覚悟なしに安さだけを求めると、トラブル時に「管理会社が助けてくれない」と嘆くことになります。

1-3. 賃貸不動産経営管理士が見る、分離発注が「NOI(営業純利益)」に与える影響

なぜ、手間をかけてまで分離発注を推奨するのか。それは、経営指標である**NOI(営業純利益)**へのインパクトが凄まじいからです。

例えば、年間家賃収入が1,000万円、修繕費が年間100万円かかっている物件があるとします。

  • 丸投げの場合: 修繕費100万円。
  • 分離発注(30%削減)の場合: 修繕費70万円。

浮いた30万円は、そのまま「純利益」となります。もし、その物件を利回5%で売却する場合、収益還元法に基づけば、利益が30万円増えることは物件の評価価値を600万円引き上げることと同義です。 賃貸不動産経営管理士は、目の前の30万円の節約を、資産価値を数百万円守るための「経営判断」として捉えます。

賃貸不動産経営管理士として、分離発注において最もハードルが高いと感じられる「業者選定」について解説します。

中間マージンをカットできる「直接業者」は、実はあなたのすぐそばにいます。大切なのは、安さだけで選ぶのではなく、「賃貸経営の継続的なパートナー」になり得る職人を見つけ出すことです。


第2章:分離発注の第一歩。信頼できる「直接業者」の見つけ方

「どこに頼めばいいかわからない」という不安は、情報の探し方と見極め方の「型」を知ることで解消できます。

2-1. 地元の「職人直営店」をポータルサイトやSNSで探す方法

かつてはタウンページで探していた職人も、今はWebやSNSで自ら発信しています。

  • Googleマップを使い倒す: 「〇〇市 クロス張替え」「〇〇駅 ハウスクリーニング」と検索し、上位に出てくる広告ではなく、「地元の事務所」をマップ上で探します。実店舗や倉庫が物件の近くにある業者は、移動コストが低いため、単価交渉もしやすく、緊急時にも駆けつけてくれやすいメリットがあります。
  • InstagramやX(旧Twitter)での検索: 「#原状回復」「#職人」などのハッシュタグで検索すると、日々の施工実績をアップしている個人事業主が見つかります。写真から「養生の丁寧さ」や「現場の綺麗さ」が判明するため、下請けに丸投げしている会社よりも信頼性が可視化されています。

2-2. 良い業者と悪い業者を見分ける「3つの質問」

直接発注では、あなたが「面接官」にならなければなりません。電話やメールの段階で、以下の3つを問いかけてみてください。

  1. 「賃貸物件の原状回復の経験は豊富ですか?」
    • 戸建ての注文住宅と賃貸の原状回復では、求められる「スピード」と「コスト感覚」が全く違います。賃貸特有のスピード感(退去から次の入居まで)を理解しているかを確認します。
  2. 「自社施工(自ら手を動かす)ですか、それとも外注ですか?」
    • ここで「自社施工です」と答える業者が、中間マージンが発生しない「真の直接業者」です。
  3. 「施工後の不具合(クロスの剥がれ等)には、いつまで保証がありますか?」
    • 安かろう悪かろうの業者はアフターフォローを嫌います。短期間(例:半年〜1年)でも明確な回答があれば、プロとしての責任感があると判断できます。

2-3. くらしのマーケットやゼヒトモ等の「マッチングサイト」を賢く使う

「くらしのマーケット」「ゼヒトモ」「ミツモア」などのマッチングサイトは、分離発注の初心者オーナーにとって強力なツールです。

  • レビュー(口コミ)が最大の資産: 管理会社に任せているときは見えなかった「施工者の評価」が全て公開されています。特に「不動産オーナーからのリピート」がある業者は、賃貸実務を熟知している可能性が高く、当たりを引く確率が上がります。
  • 「メッセージのレスポンス速度」をチェック: 賃貸経営はスピード勝負です。マッチングサイト内のチャットの返信が早い業者は、現場管理能力も高い傾向にあります。逆に、最初の返信が2日以上空く業者は、トラブル時の対応も遅れるリスクがあるため、避けるのが賢明です。

賃貸不動産経営管理士として、分離発注において最も「腕の見せ所」であり、同時に「失敗の種」が潜んでいるのがこの第3章です。

中間マージンを払わないということは、あなたが「現場監督」になることを意味します。職人は「作業のプロ」ですが、物件の「経営判断」まではしてくれません。あなたが正確なタクトを振るための、ディレクション術を解説します。


第3章:失敗しないための「ディレクション(指示)」の技術

管理会社の担当者が裏で行っている実務を言語化し、オーナーが再現するための手順です。

3-1. 仕様書(指示書)の作成:言葉のズレが追加費用を招く

職人とのトラブルで最も多いのが「そこまでやってくれると思っていた」「それは別料金です」という認識のズレです。これを防ぐには、口頭ではなく、簡易的でも良いので「書面(またはLINE等の履歴)」で仕様を固定することが不可欠です。

  • 数値で指定する: 「綺麗にして」ではなく、「クロスの品番は〇〇、貼り替え範囲はリビング北面のみ。残りはクリーニングで対応」と具体的に示します。
  • 「含み」を明確にする: 「ハウスクリーニング代にエアコンフィルター清掃とベランダ洗浄は含まれるか?」といった、境界線が曖昧な項目を事前に箇条書きで確認し、合意を得ておきましょう。これが、後出しの「追加請求」を防ぐ最強の防御策になります。

3-2. スケジュール管理の要諦:クリーニングと設備工事の順番を間違えない

分離発注では、複数の業者をあなたがパズルのように組み合わせる必要があります。ここで順番を間違えると、余計な工賃や工期の遅れが発生します。

  • 鉄則は「汚れる工事」が先、「仕上げ」が後:
    1. 解体・設備工事: エアコン設置、水回り交換など(粉塵やゴミが出るため)
    2. 内装工事: クロス・床の貼り替え(設備がついた後の方が綺麗に仕上がる)
    3. ハウスクリーニング: 一番最後。
  • ありがちな失敗: クリーニングの後にエアコン設置を頼むと、設置時のホコリや職人の足跡で、せっかく綺麗にした部屋が台無しになり、最悪の場合は再清掃の費用がかかります。

3-3. 現場確認のポイント:プロの職人に「なめられない」チェックリスト

工事完了後の「検収(仕上がり確認)」は、オーナーの重要な仕事です。ただ眺めるのではなく、プロの視点で「ここを見るぞ」という姿勢を示すことで、職人の緊張感(=品質)を高めることができます。

  • 賃貸経営管理士の「検収チェックリスト」:
    • クロスの隙間: 入隅(部屋の角)や巾木との間に隙間がないか。
    • 設備のアタリ: 扉の開閉時に引っかかりはないか、水漏れはないか。
    • 臭いと触感: 排水口から臭いが上がっていないか、床にザラつき(清掃残し)はないか。
  • 指摘のコツ: 不備を見つけたら、感情的にならず「ここ、入居者さんからクレームになりそうなので、手直しお願いできますか?」と、入居者目線を理由に修正を依頼します。これにより、プロ同士の建設的なコミュニケーションが成立します。

賃貸不動産経営管理士として、分離発注シリーズの最後を締めくくるのは「共存」の技術です。

オーナー様がコストカットを断行すると、管理会社側は「自分たちの利益(マージン)が削られた」と感じ、モチベーションが低下したり、最悪の場合は管理を断られたりするリスクがあります。第4章では、管理会社を敵に回さず、むしろ「強力なパートナー」として再定義するための、スマートな経営戦略を伝授します。

第4章:管理会社との「役割分担」を再定義する

分離発注は、管理会社との「決別」ではありません。お互いの得意分野を活かし、物件の収益を最大化させるための「役割の最適化」です。

4-1. 「全部自分でやる」のではなく、一部を切り出す「部分分離発注」

いきなりすべての工事を分離発注にすると、現場の混乱を招きます。まずは、管理会社の負担が少なく、かつマージン率が高い項目から段階的に切り出すのが大人のやり方です。

  • 切り出しの推奨項目:
    • ハウスクリーニング: 定型作業のため、オーナーが直接手配しても管理上のトラブルが起きにくい。
    • エアコン等の設備交換: ネット通販で安く仕入れ、取り付けだけを直結業者に頼むことで、透明性の高いコストカットが可能です。
  • 伝え方のフレーズ:
    「いつもありがとうございます。修繕費の予算を最適化して、その分を『空室対策の広告費』に充てたいと考えています。今回のクリーニングとエアコン交換だけは、こちらの知り合いの業者で対応させてもらってもいいでしょうか?」

4-2. 分離発注した工事でトラブルが起きた際の「自己責任論」を徹底する

管理会社が分離発注を嫌がる最大の理由は、「他人がやった工事の責任(クレーム対応)を負わされるのが嫌だから」です。この不安を先回りして解消しましょう。

  • 責任の境界線を明確にする: 「自分が手配した業者の施工ミスや遅延については、すべて私が直接業者とやり取りし、解決します。御社にご迷惑はかけません」とはっきり宣言してください。
  • 実務上の配慮: 工事日時の報告、鍵の貸し出しルール、入居者への告知など、管理会社の通常業務を妨げないよう細心の注意を払うことで、「このオーナーのDIY・分離発注は管理しやすい」という信頼を勝ち取れます。

4-3. 浮いたコストを管理会社への「成功報酬」へ回す、スマートな利益分配

賃貸不動産経営管理士として、私が最も推奨する「三方良し」の戦略です。修繕費で削ったコストを、そのままオーナーのポケットに入れるのではなく、「客付け(成約)」の報酬として管理会社に還元します。

  • 広告料(AD)の加算: 「修繕費で30万円浮いたので、そのうち10万円を次の客付けの広告料(AD)として上乗せします。その分、早期の満室をお願いします!」と提案します。
  • Win-Winの構造: 管理会社にとっては、不透明な工事マージンよりも、明確な「成約報酬」の方が社内の評価にも繋がりやすく、客付けの優先順位を上げてくれます。オーナーにとっては、修繕費を抑えつつ空室期間も短縮できるため、トータルの収益(NOI)は最大化します。

【まとめ】分離発注は、管理会社と「より良い未来」を築くための手段である

分離発注の本質は、単なる「中抜き」や「コストカット」ではありません。それは、オーナー自らが経営の舵を取り、「どこにコストをかけ、どこを節約するか」という意志を物件に反映させることです。

  • 構造を知る: 複雑な工事の流通経路を理解し、不当な上乗せではない「調整コスト」の正体を見極める。
  • 主体的に動く: 信頼できる職人を自ら探し、正確なディレクション(指示)を行うことで、管理会社が担っていた「手間とリスク」を自分の力に変える。
  • 質を担保する: 現場監督としての目を持ち、入居者様が満足する仕上がりを自分の責任で保証する。
  • 利益を分かち合う: 浮いたコストを「広告費(AD)」などへ再投資し、管理会社のやる気を引き出す「三方良し」の循環を作る。

管理会社を「敵」にしてコストを削るのではなく、彼らの負担を減らし、成果(成約)に対して正当な報酬を支払う。この「スマートな利益分配」ができるオーナーこそが、管理会社からも職人からも、そして入居者様からも選ばれ続ける「真の勝者」となれるのです。